万博会場で子ども向けワークショップ開催! - 日本
万博会場で子ども向けワークショップ開催!
オランダは、「子どもが幸福な国」として定評があります。国際機関ユニセフ(国際連合児童基金)が発表する報告書で、オランダは数回連続で「子どもの幸福度」ランキングの総合でトップとなっているからです。日本でも教育関係者や子どもを持つ親たちの間でオランダ教育は注目されており、中には子どものために日本からオランダに移住する人たちもいます。しかし、実際にはオランダ教育についての理解が足らず、「こんなはずではなかった」というケースも発生しています。オランダの教育とはどのようなものなのでしょうか?
個別化を重視する小学校教育
オランダの子供たちが幸福な背景には、遊びと学習のバランスの良さ、社会全体による子どもへのサポート、そして親や教師の柔軟な働き方、プレッシャーの少ない子育て環境など、さまざまな要素が影響しています。中でも日本との比較で注目されているのは、小学校教育のあり方です。
オランダと日本の小学校教育におけるいちばん大きな違いは、その「選択の幅」にあるといえるでしょう。これは、オランダの教育が1人1人に合った個別化を重視していることによります。
まず、オランダでは学区制がなく、基本的には、さまざまな学校から各自に合った学校を選ぶことができます。公立でも普通校に加えて、モンテッソーリやイエナプランなど、オルタナティブ教育の学校があり、選択肢がたくさんあります。ただ、小学校は一般的に日本の学校に比べて小規模なところが多く、キャンプや遠足、バザーなどのイベントでは、保護者のボランティアワークがたびたび求められます。
オランダの義務教育は5歳から18歳まで。小学校は8年間で、4歳から通い始めることができます。日本のように4月に一斉入学するスタイルではなく、4歳の誕生日を迎えると小学校に通い始めるため、生徒の入学時期はばらばらです。また、各自の学習ペースに応じて留年・飛び級するケースも多々あり、クラスの生徒たちの年齢はまちまちです。さらに、複数の学年が1クラスに入っている学校も多く見られます。
小学校の学習は、暗記学習などよりも、自分の考えを述べたり調べたりすることに重点がおかれているほか、周りの人や自然の多様性を学び、その違いを尊重することも重視されています。宿題やテストはあまりなく、子供たちは遊び中心の生活をのびのびと楽しんでいます。それでも、最終学年には国語(オランダ語)の読み書きや算数の全国共通学力試験があり、その点数と過去の学習態度などを総合し、中学・高校のコースが決まります。その際に決め手となるのはやはり、オランダ語の能力です。
中高校は学習内容が一気にレベルアップ
オランダでは中学・高校が一体となっていて、レベルによって4・5・6年と長さがちがいます。4年コースは「職業訓練コース」。卒業後は直接仕事に結びつくことを学ぶ専門学校に進みます。5・6年コースは、 「大学進学コース」。5年コースを卒業すると、高度な専門技術を学ぶ「実務専門大学」、6年コース卒業後は、研究を中心にした「研究大学」に進むことができます。
つまり、オランダでは小学校の最終学年で受ける全国共通学力試験により、いったん大学進学コースか、職業訓練コースかに分かれるのです。これはその後の成績次第で変更できるものですが、職業訓練コースから大学進学コースへの変更には時間や労力がかかり、それなりの努力と覚悟が求められます。
中学校に入ると、遊んでばかりだった小学校生活から一変。教科も一気に増えて、宿題や試験勉強も始まります。特に大学進学コースの学習内容は、いわゆる暗記学習も必要となるし、テーマに即した議論の能力なども必要とされます。同コースでは3年間の基礎教育課程を経た後、4年生からは4つの専攻から1つを選択することになり、この選択がその後の大学専攻にも影響します。
そしてそれぞれのコースの最終学年には「卒業試験」があります。オランダには大学への入学試験はありませんが、この卒業試験が次の進路への関門となります。ちなみにオランダで大学進学コースはエリートコースの位置づけです。特に研究大学は非常に高度な学術研究機関で、卒業する人はほんの一握りです。
「キラキラだけではない」正しいオランダ教育情報を
オランダの教育に関しては、特に小学校低学年までの小さな子どもを持つ日本人の保護者によるポジティブな意見がSNSやメディアを賑わせています。しかし、オランダ教育に関するワークショップを主催する「おひさまプロジェクト」の山本絵美さんによると、こうした「キラキラした情報」についてはオランダ教育に限らず、その根拠と信頼性、正確性をきちんと見極める必要があります。
「例えば、未就学児か小学校低学年の子どもを持つ保護者が、自分の体験をもとに発信している場合、それはあくまで一個人の経験であり、一般化できるものではありません。もし『オランダ教育』を考えていらっしゃるなら、中高生以降の難しい学習内容や、大学進学コースに進むために必要とされるオランダ語能力の高さなどについて、広範囲かつ最新の情報を、ご自身で分析しながら集めることが大切だと思います。」(山本絵美さん)
同プロジェクトの上野淳子さんも、「学校の先生との連絡も基本的にはオランダ語なので、親が先生とうまく交流できない中、子どもだけが学校に溶け込むことも難しいですよね」と指摘します。
また、同プロジェクトの代表である米良好恵さんによると、オランダでうまくいかずに日本に帰っても、海外にいたというだけで風当たりが強かったり、日本の学習についていけなくなったりと、辛い経験をする子どもたちも多いといいます。
一方で、経済協力開発機構(OECD)が実施する国際的な学習到達度調査「PISA」の結果を見ると、学力レベルでは実は日本の方がオランダよりもずっと高く、世界でもトップレベルであることも注目されます。米良さんは、「オランダの教育は確かにいい面がたくさんありますが、安易に移住を決めるのではなく、まずはオランダや日本の教育についてきちんとした情報を知ってほしい」と語っています。
オランダ教育を日本で体験!万博のオランダパビリオンでワークショップ
おひさまプロジェクトチームはもともと、オランダに住む日本人の子供たちに日本語を教える「てらこや@アムステルダム」という学習教室から派生しています。「海外在住の子どもたちのための適切な日本語教材がない」という課題に直面し、試行錯誤しながら教材づくりを進め、2018年に『おひさま』(くろしお出版)という教科書を出版しました。発売以来、世界各地の子どもたちに支持され、その後出版された『おひさまワークブック』とともに2万部以上を売り上げています。
この活動がきっかけとなり、同チームは日本語教育のみならず、オランダ教育に関する正しい情報を日本に伝える活動も行うようになりました。2020年以降は、駐日オランダ王国大使館との協力の下、オランダ教育に関するセミナーやワークショップも開催しています。2024年は「オランダ教育とSDGs」をテーマに、子ども向けのワークショップを実施しました。
今年は7月15日~23日にかけて、大阪・関西万博のオランダパビリオンで、子どもや家族を対象としたワークショップを全18回開催する予定です(※すでに受付は終了しております)。「3歳~小学校低学年」「小学生」「中高生」を対象としたものに分かれており、オランダの文化や考え方、そしてサステナビリティの取り組みを楽しく学びながら体験できる内容となっています。中高生は時事問題を議論するなど、オランダの学校教育を体験できる場ともなっています。オランダ教育に関する正しい理解を得るきっかけともなることでしょう。
山本さんは、「オランダ語をちょっと学ぶだけでも、日本文化の別の側面が見えてきます。文化や言語を学ぶって面白い、と思ってもらえたら嬉しいです」とコメント。上野さんも「オランダに興味を持ってもらうための種を蒔けたら」と語っています。米良さんは、「子どもたちが笑っていたら、お父さんもお母さんもハッピー。そんな家族が増えれば、それは最終的に世界平和につながると思っています。これからも子どもたちの笑顔を増やす活動を続けていきたいです」と抱負を述べました。
筆者:山本直子