来年は同性婚承認から25周年、LGBTIQ+の人権保護を先導するオランダの取り組み - 日本
来年は同性婚承認から25周年、LGBTIQ+の人権保護を先導するオランダの取り組み
オランダは2001年、世界に先駆けて同性婚を合法化した国として知られ、長年にわたりLGBTIQ+(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックス・クィアなど)の人々の権利保護と社会的包摂を世界的に先導してきました。その取り組みは法律制度のみならず、教育現場や市民社会、外交政策にも深く根ざしています。
同性婚承認から25周年、来年はアムステルダムで「ワールド・プライド」を開催
毎年夏になると、アムステルダムではLGBTIQ+の祭典「プライド・アムステルダム」が盛大に開催されます。アムステルダムは普段からさまざまな人々が集まるダイバーシティの街ですが、同イベント中は世界中からの参加者で、一段と多様性が増します。
開催期間の9日間には、街中でダンスパーティーや、映画上映、討論会、展示など、多彩な催しが行われます。中でも運河で開催される水上パレードは、カラフルな衣装に身を包んだ人々がボート上でダンスやパフォーマンスを繰り広げ、オランダの自由と寛容を象徴する催しとして有名です。これは今年で29回目を迎えます(2020年はコロナ禍によりパレードは行われませんでした)。
そして来年は、オランダが世界で初めて同性婚を合法化してから25周年。このため、アムステルダムでは「ワールド・プライド」が開催される予定で、期間も例年の9日間から15日間に延長されます。
同性婚承認以降も続く、法規制の整備
同性婚が承認されてからも、オランダでは課題が持ち上がるたびにLGBTIQ+の人権保護のために法規制が整えられてきました。2014年には、「(市役所などの)結婚担当者は同性カップルの結婚を拒否することができない」ということが法律で定められました。これは、結婚届を出した人が、同性婚であるがゆえに職員に承認を拒否されたという事案が発生したことによります。同性婚が社会に浸透するまでにも紆余曲折を経ているのです。
公式身分証明書については、1985年以来、出生証明書やパスポートなどの性別変更が可能です。2014 年までは完全な性転換手術が条件でしたが、2014 年以降は法改正により臨床医による診断に緩和されました。現在は、これらの公式身分証明書に「M(男性)」または「V(女性)」の表記を「X(第3の性)」に変更すること、そしてそれが何歳から可能にすべきかについて、議論が行われています。
その後もさまざまな差別への対策として、オランダ政府は2021年10月以降、差別対策の国家コーディネーター(NCDR)を任命しています。このコーディネーターは、オランダとカリブ海地域を含める地域で、さまざまな差別に対抗するための国家プログラムに取り組んでいます。
このほか、政府は「Gezondheidszorg op Maat(オーダーメイドの医療)」アライアンスという組織へのサポートを通じ、LGBTIQ+に配慮した医療に関する知識を医療関係者などと共有する活動を実施しています。また、教育・文化・科学省の反差別プログラムの一環として、LGBTIQ+に対する差別に関する情報を専門公務員がより積極的に共有するよう促しています。
世界に発信、LGBTIQ+の平等な権利
一方、世界の60カ国以上で同性愛は犯罪とされており、そのうち11か国では、同性間の同意に基づく性的行為に対して、死刑が科せられる可能性もあります。LGBTIQ+の人々は、自身がLGBTIQ+であると知られることを恐れて、暴力を受けても警察に通報することをためらうことも多いといいます。
世界中のLGBTIQ+の平等な権利の促進に向け、オランダ政府は各国に対して、同性愛を犯罪とする法律の撤廃や、差別や暴力への対策、LGBTIQ+の受け入れと理解の促進を求めています。また、「Equal Rights Coalition(平等な権利連合)」に加盟する44カ国との協力や、国内外のLGBTIQ+コミュニティを支援する団体との戦略的パートナーシップを通じて、積極的に支持を表明し、啓蒙活動をサポートしています。
また、毎年5月17日の「ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアに反対する国際デー(IDAHOT)」には、在外公館ネットワークを通じてLGBTIQ+の平等な権利の重要性を広く啓発しています。駐日オランダ王国大使館・総領事館も毎年IDAHOTに参加。ほかにも「東京レインボープライド」や「プライド・クルーズ大阪」などにも積極的に参加し、誰もが平等な権利を持つことの大切さを訴えています。
世界最古のLGBTIQ+組織、草の根でネットワークづくり
オランダには現存する世界最古のLGBTIQ+の権利擁護団体「COC」もあります。同性愛者向けの雑誌の読者により1946年に設立された同組織は、「誰もが自由と安全の中、自分自身でいられる世界」を目指して、国内外でネットワーキングや啓蒙活動を行っています。国内20カ所に地域支部を持つほか、国外では35カ国以上の活動家をサポートしています。
COCの傘下にはさらにいろいろな組織が形成されており、例えばLGBTIQ+の中でも50歳以上のコミュニティ「Roze 50+」や難民ネットワークの「Cocktail」、自閉症のコミュニティ「Autiroze」などがあります。
オランダ南部のアイントホーフェン市で設立された「Gendermore(ジェンダーモア)」という組織もCOCの傘下グループのひとつです。2017年に設立されて以来、毎月第2土曜日に集会を開き、10-15人のメンバーでさまざまな悩みを共有したり、テーマについて話し合ったりしています。2カ月に1度は地元の小さなカフェで「ジェンダーカフェ」を開催し、LGBTIQ+コミュニティのネットワークの場も提供しています。
ジェンダーモアを運営するミランさんは、こうした活動の意義について、「LGBTIQ+であることを家族に認められていない人もいれば、小村に住み、仲間と出会う機会がなく孤独な人もいます。そんな人たちが集まって自身の経験や悩みを共有することができる場はとても大切です」と語ります。
一方、COCの支援を受けながら、学校での安全な環境づくりに取り組む学生グループもあります。「ジェンダー・セクシュアリティ・アライアンス(GSA)」という組織で、オランダの中学・高校の80%で設立されています。LGBTIQ+の人々の理解と受容を広げる活動のための資料やポスターなどを無料で提供したり、セミナーを開いたり、毎年12月の第2金曜日に開催される「パープル・フライデー(紫のものを身に着けてLGBTQ+の若者たちを支援)」などの全国キャンペーンを実施したり、教育現場でも積極的に啓蒙活動を行っています。
差別との闘いは続く
政府や民間組織の積極的な働きかけにより、オランダではLGBTIQ+に対する理解や包括性が社会に浸透しつつあり、「オランダで『プライド』や『IDAHOT』のようなイベントはもはや必要でないのでは?」という声も上がっています。しかし、それについて政治家のロブ・イェッテン氏は、2020年5月17日のIDAHOTに寄せて、ひとつの回答を「ツイッター(当時)」で投稿しました。そこでは、自らがゲイであることを公言している同氏に送られてきた、誹謗中傷の言葉が公表されています。静かな口調で次々と語られるその激しい差別の言葉は、多くの視聴者に衝撃を与えました。
オランダ政府の調査によると、2022年に警察に寄せられた差別に関する通報のうち、およそ3分の1が性的指向に関するものでした。LGBTIQ+の10%以上が身体的または性的な暴力を経験しており、トランスジェンダーの人では17%、インターセックスの人では22%と、さらに高い割合になっています。また、2023年の「差別と人種差別に対する国家プログラム」では、LGBTIQ+の人々に対する言葉による暴力、脅迫、暴力行為の件数も急増していると報告されました。
LGBTIQ+の人権保護はまだまだ道半ば。引き続き、法規制などの環境整備とともに、教育や社会における啓蒙活動が求められます。多様性を認め合い、誰もが安心して自分自身でいられる日が来るまで、偏見や差別との闘いは終わらないのです。
筆者:山本直子